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ホワイトペーパー

2012 年 1 月

日本ネットワークイネイブラー株式会社

フォールバックの問題について

~ World IPv6 Launchに影響を及ぼさない唯一の恒久策はIPv6対応 ~

1.フォールバックとは

 IPv6/IPv4デュアルスタックの環境では、IPv6通信が優先されることが多い。このデュアルスタック環境において、送信端末のアプリケーションがIPv6通信を試みたが、何らかの理由で通信が成立しない場合、IPv4通信で再送を試みることがある。これをフォールバックという。(図1)

図1

国内においては、東日本電信電話会社及び西日本電信電話会社(以下、NTT東西)の地域IP網や次世代通信網(NGN)上で展開されているインターネット接続サービスにおいて上記の事象が確認されている。IPv4インターネットサービスを利用しIPv6インターネットサービスを利用していない場合にフォールバックの問題が発生する。(詳細は後述)

 送信端末のOSの種類やバージョン等により挙動は異なるが、IPv4による再送の際にWindowsの場合は約20秒、MacOSの場合は約70秒を上回る遅延が発生する。ここまで遅延が生じると、実質このサービスをインターネットとして使うことができなくなる。更に、フォールバックしないOS等も存在する。フォールバックしない場合には通信は成立しないためこの問題はより深刻となる。

 NTT東西ではこの問題を緩和する対策が取られている。送信端末から受信したTCPパケットが自網宛ではない場合、ネットワーク内の機器は通信不可と判断し、送信端末に対して RSTビットをセットしたTCPパケットを返信するという対策を取っている。この対策を施した場合、RSTビットがセットされたTCPパケットを受信した送信端末は上記の遅延を発生させることなくIPv4通信で再送を試みる場合がある。Windows の場合は遅延時間を約1秒、MacOSの場合は約0.01秒まで短縮することができる。この対策により遅延時間は大幅に短縮されるが遅延時間がゼロになるわけではないため、リアルタイム性を重視するコンテンツ事業者には深刻な課題として捉えられている。また、この対策はTCP通信のみに有効であり、UDP通信には適用されない。更に、RSTビットをセットした信号を受信した送信側端末のアプリケーションが上記のIPv4による再送を行わない仕様のものが存在するため、緩和策にはなるが解決策にはなり得ない。

図2

2.理想のケース

 IPv6/IPv4デュアルスタックの環境において、IPv6側のネットワークがインターネットに接続されている場合は、IPv6による通信が成立する。これが理想のケースである。その際の動作は次の通りである。

① IPv6インターネットからIPv6アドレスが払い出される。
② アプリケーション(端末)はIPv6を優先する。
③ IPv6インターネット経由で通信が成立する。

 具体的には、エンドユーザがインターネット(IPv6 IPoE)接続(以下、ネイティブ方式)やインターネット(IPv6 PPPoE)接続(以下、トンネル方式)によりIPv6インターネットサービスを利用しているケースを指している。

図3

3.フォールバックが起きるケース

 IPv6/IPv4デュアルスタックの環境において、IPv6側のネットワークがインターネットに接続されていない閉域網である場合にこの問題が起きる。その際の挙動は以下の通りとなる。(図4)

図4

① IPv6閉域網から端末に対して閉域網内宛の通信のためのIPv6アドレスが払い出される。
② 端末にIPv6アドレスが付与されているため、アプリケーション(端末)はIPv6でインターネットへの通信ができるものと解釈する。
③ 送信端末はIPv6閉域網にインターネット宛のIPv6パケットを送信する。
④ IPv6閉域網の装置は受信パケットが閉域網内宛(自網宛)ではないため通信が成立しないと判断し、RSTビットをセットしたTCP信号を送信端末に対して返信する。
⑤ ④のパケットを受信した送信端末は IPv4 インターネット経由でパケットを再送する。但し、前述の通りプロトコルにより再送できない場合がある。また、OS等によってはIPv4経由の再送を試みないものがある。

 前述の通りWindows の場合には遅延を約1秒間まで短縮することができるが、これは③~⑤の間に要する時間のことである。閉域網がRSTを返信しない場合にはアプリケーションにより20秒以上かかると書いたが、これも③~⑤の間に要する時間を指している。

図5

 図 5は、本質的には図4と同じである。IPv4インターネットへの接続がIPv6閉域網上にオーバーレイされるPPPoE上で行われているケースを示している。
具体的には、エンドユーザがネイティブ方式やトンネル方式によるIPv6インターネットサービスを利用せずにIPv4しているケースを指している。

4. フォールバックはいつ起きるか

 フォールバックの問題はインターネット上のIPv4サーバがIPv4/IPv6デュアルスタック化した時、又はインターネット上にIPv4/IPv6デュアルスタックサーバが新規導入され時にIPv6閉域網を利用する送信端末に起きる。(サーバのデュアルスタック化は歓迎するものであり何ら問題は無い) 具体的には通信先のIPv4サーバが次の2つを行った際に問題が発生する。

① IPv4サーバがIPv6の対応を行う。(又はデュアルスタックサーバを新規導入する)
② 該当サーバの権威サーバにAAAAレコードの設定を投入する

 2011年現在、インターネット上で上記①②の2項目を実施しているサーバが少ないため通常状態では問題が大きく目立つことは少ない。しかし、2011年6月7日に行われた World IPv6 Day の際に世界中の多くのサーバが上記2項目を実施した結果、「フォールバックの問題」が表面化した。

 2012年6月に向けて計画されている World IPv6 Launch の際には、より多くの世界中のサーバが上記①及び②の対応を行うことが考えられる。当社は「フォールバックの問題」が大きく問題視されると予想している。

5.当面の暫定策

 フォールバックの問題を解決する手段がいくつか考えられるが、代表的な手段を紹介する。ISPのキャッシュDNSサーバ等でAAAAレコードをフィルタアウトするというものである。このフィルタをかけることによって送信端末から問い合わせのあったURLに対してキャッシュDNSサーバは通信先サーバのIPv6アドレスを返答しなくなる。IPv4アドレスのみの返答を受けた送信端末は最初からIPv4宛にパケットを送信することが可能となる。

 具体的手順は以下の通りである。(図6)

図6

① キャッシュDNSサーバにAAAAフィルタの設定を行う。
② 送信端末はキャッシュDNSサーバに通信先URLのIPv6アドレス及びIPv4アドレスの両方の問い合わせを行う。
③ キャッシュDNSサーバは送信先サーバのIPv4アドレスのみを返答する。
④ 送信端末はIPv4インターネット経由で通信先サーバに向けてパケットを送信して通信が成立する。

 これによりフォールバックは発生しなくなりアプリケーションへの影響は出なくなるという効果がある。2011年6月8日のWorld IPv6 Dayの際には国内におけるいくつかのISPがこの対応を行い効果が実証された。しかし、これはIPv6の通信を止めてしまう対策であるため、恒久策にはなり得ない。

6. ネイティブ接続採用による恒久策

 ネイティブ方式、トンネル方式共に当てはまることであるが、IPv6ネットワークがインターネットに接続されている場合はフォールバックにより遅延することなくIPv6通信が可能となる。
図7はネイティブ方式の例であるが、IPv6 VNE(*1) (JPNE)がインターネットへの接続性を持っているために、送信端末はIPv6による通信を行うことができる。
ネイティブ方式の場合、通信手順は2項の「理想のケース」と同様であるが、念のために動作を再整理しておく。

図7

① IPv6ネットワーク側からIPv6アドレスが払い出される。
② 送信端末はIPv6を優先する。
③ IPv6インターネット経由で通信が成立する。

7.結論

 閉域網によるフォールバックの問題を解決するための唯一の恒久策はエンドユーザがIPv6インターネット接続をすることである。しかし、国内全てのエンドユーザが一気にIPv6対応することは現実的ではないため、当面は前述の暫定策を併用する必要がある。
 一部のISPが暫定策を導入してもコンテンツ事業者から見ると日本全体として改善されたことにはならないために、基本的には全てのISPをカバーするような暫定策が必要となる。また、この暫定策への投資は各ISP・VNE・NTT東西全てのプレーヤーにとって利益に直結しないため、各プレーヤーで協力しあい、それぞれのコスト負担が最小になるように留意する必要がある。
 国内においては既に多くのISPやVNEはエンドユーザにIPv6インターネット接続を提供するためにNGNをアクセスネットワークとして利用している。しかし、多くのエンドユーザはIPv6インターネットに接続することのできない地域IP網に収容され続けている。
 また、NGNに収容されているエンドユーザの大多数はIPv6インターネット接続の契約を行っていない事実もある。
フォールバックの問題を解決するためには、地域IP網からNGNへの移行促進やIPv6インターネットの契約手続きの省略や簡素化等が必要である。当社JPNEはNTT東西、ISP、機器メーカ等とともに恒久策としてのIPv6インターネット接続の推進を目指し、これらを解決していきたい。

以上

(*1) VNE : Virtual Network Enabler

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